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帰りは、ずぶ濡れになってしまった靴下を脱ぎ、素足に革靴で返ってきた。それでも水を含んだ革靴が、歩く度にキュ、キュ、と音を立てる。
家に着くとまずはベランダに靴を立てかけて、乾かさなければならなかった。それでも、と隼人は思う。普段のデートとはまた違う、暖かい気持ちが胸に残る。今日海を見に行って良かった、と。
「痛た……」
ふと、意識せずに口に出た。隼人が痛みの元を探って足を見ると、親指の先が血を滲ませていた。水を吸って膨らんだ靴の中で足が泳ぎ、靴擦れしてしまったのだろう。
「お、大丈夫か?」
目ざとく見つけた栄二朗が聞いてくる。
「座ってろ。今、お湯持ってきてやるから」
「あ……うん」
栄二朗にそこまでさせる気のない隼人は一瞬言いよどんだが、すでに彼はバスルームへ向かっていた。仕方なくソファに座り待つ。洗面器に温めのお湯を携え、栄二朗は戻ってきた。
「悪りぃな。怪我させるつもりはなかったんだが。ちょっとしみるぞ」
「ううん、楽しかったから良いんだ。……あちっ」
「砂出すから、ちょっと我慢しろ」
「うん」
しみたのは最初だけで、栄二朗が丁寧に傷口から砂粒を取り除いてくれる。お湯が温めなのが、気持ち良かった。心地よさに任せ、つい瞳を閉じてしまった時だった。違和感を感じたのは。
「あッ……!」
思わず声が裏返ってしまって、隼人は慌てる。見ると、栄二朗が隼人の足の親指を口に含んでいた。熱くぬめった舌が指先や指の股を這い回る感触が、まるで自身をなぶられているような錯覚を引き起こす。
「やっ……栄二朗、それ、やだっ……」
じわりと滲む視界の中で、栄二朗が親指を開放しないまま片頬を上げたのが見えた。身をよじったが、がっちり足を両手で押さえられている為、逃れられない。体温が上がった。
「や・だってば……!」
涙声で頼むと、ようやく親指は開放されたが、隼人の身体がもう引き返せなかった。
「お前、最初っから……!」
「まさか。足も性感帯だって知ってたけどな」
「栄二朗……!」
責める声音に、喉の奥で軽く笑い、栄二朗は隼人の腰をやんわりと撫でた。
「大丈夫だ、すぐに済ませるから」
「馬鹿……っ」
明日も仕事。言葉通り、ピロートークは短めだろうが、共に海で囁きあった秘め事が、それを補って余りあっただろう。
End.
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