晴れた日に傘

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 彼女はまたじっくりと、目を皿のようにして天気予報をみていた。お気に入りの白地にパステルカラーの水玉模様のビーズクッションをぎゅっと抱きしめながら。  自分が住んでいる、また出掛ける予定の地域だけではなく、北海道から沖縄まで日本全国の天気予報をじっくりと少しも漏らさないようにみている。  それが終わったかと思うと、次は世界の天気予報をチェックし始めるのだ。  特別海外に行く予定など無い。あるはずも無い。何故なら彼女はそもそもパスポートすら持っていない。  一通りチェックし終えると、彼女は明日の支度をする。紺色のリュックに何やら詰め込んで、明日着る洋服は靴下まで全て用意する。  カーキ色のカットソーに、デニムのパンツ、その上に黄色いレインコートを畳んで乗せた。 「明日は晴れるよ」  さっきみた天気予報では、降水確率0%だったはずだ。この湿度温度と不快指数高まる時期に、通気性の悪いレインコートを、雨でもないのに着るなんて、私には理解できなかった。 「そんなことないよ、だって雨は降るもの」  彼女はそう言って、玄関にいつもの黄色い傘があること確認しにいった。  玄関のわかりやすいところに、黄色い傘を置いて、絶対に忘れないように、と柄の部分をおまじないのように撫でるのだ。
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