しとしと雨の日に

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 時折、母が雨傘を届けに来ることが功希には何度かあった。いつもというわけではないので、迎えに来てもらうことは嬉しいと思う。その反面、仕事で疲れているはずなので申し訳ない気持ちがあり、それは年々募ってきている。  そして今日を迎えた。  功希は同級生たちに、からかわれてしまう。 「わあー、いいな、功希は。優しいママのお迎えがあって! 俺は濡れて帰るんだぜ!」 「功希はママと一緒に帰るんだー!」 「一人では帰れませーん!」  同級生たちに母親のお迎えを見られた功希は、指を差されて笑われた。  ママのお迎え。一人では帰れない。それらの言葉は功希にとって、恥ずかしい思いをさせるものであった。 「みんな元気ねえ」  と母はくすくす笑っている。功希は無言で雨傘を受け取って差した。  もう、もういいや。今日で最後でいいや。と功希は唇を噛んでから、母に言った。 「母さん。もうこれからは迎えに来なくていいよ」 「何で。からかわれたから?」 「そ、それもあるけど。疲れてるでしょ。俺は平気だから、もういいよ。迎えに来なくて」 「そう? でも」 「いいったら。もうちょっとで中学に上がるし、恥ずかしいんだよ」  功希は突っぱねた。すると母はあっさりした返事をする。 「そっか。分かった」  しかしそれは寂しい声音であることを、功希はしかと感じ取った。 ◇  母親に、もう迎えに来なくていいと言った日から、幾日かが過ぎて。  また、別の雨の日のこと。     
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