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しとしと雨の日に
◇
学校の授業が終わって。
さあ、これから帰ろう。と思った矢先に降り出した。
◇
しとしと雨だ。
傘がなければ、家に着く頃にはずぶ濡れになるだろう。
小学五年生の富澤功希は、雨空を見てそう思った。傘は持っていない。
「まあ、いいや。濡れて帰ろうっと」
下校していく他の生徒たちを見ると、傘を差して歩く子もいれば、傘がないので走って帰る子もいた。
走ったところで濡れ鼠になるんだろうけど。
これまでに何度も雨に打たれて帰ったことがあるので、傘がなくても大したことではない。ただ、濡れるだけ。風邪を引いたら運がなかったと思うだけ。
功希も家まで駆け足するはずだった。しかしこの日は運があったので、そうはならなかった。
校舎から雨が降る外へ出ようとした時、前方から花柄の傘を差す女性が歩いてきた。傘はテンジクアオイの花と白いレースの模様が描かれている。
彼女は功希の母であった。母の手には功希の雨傘が握られている。
「母さん」
わざわざ迎えに来てくれたんだ。と功希は声を掛けた。
「今日は仕事が早めに済んだからね」
と、母は笑む。
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