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「やっと見つけたわ・・・」
ここ数日、空はどんよりと灰色に曇っておりました。
もう梅雨入りの時期でしょうか。
こんな日に外へ、ましてや土手沿いを歩く酔狂な人間などいるはずもなく、昼間だというのに人の気配を全く感じる事がないまま、土手の一本道をここまでずっと歩いてきました。
先日から降り続く長雨で、土手沿いの道には沢山の水溜りが出来ておりましたが、その中にひとつ、少し先に見える水溜りだけは、今まで見てきたものとは全く違う姿をしておりました。
今まで見てきた水溜りは、どれも空のくすんだ灰色を映していたのですが、その水溜りは今まで見てきたどんなものよりも美しく、それはそれは綺麗な七色に輝いておりました。
―――長い間、ずっと探し続けた甲斐がありました。
私は喜びに浸る間もなく、虹色に光る水溜りが消えてしまう前に、急いで近くに駆け寄りました。
水溜りは飛び越えれるぐらいの大きさで、上から覗くとより一層輝いて見えました。
虹色の水溜りは、底など存在しないのではないかと思ってしまうほど、とても深い水溜りのようだと感じました。
私は傍らに膝を付くと、先ほどよりも近い距離で虹色の水溜りを覗き込み、こう伝えました。
「私の名前は原田 美代子と申します。私は風の噂で虹色の水溜りが、探しものを必ず見つけてくれると聞き、長い間ずっとあなたを探しておりました。どうかお願いです。私に清水 博さんという人物が何処に居るのかを教えて下さいませんか。私はどうしても、彼の居場所を知らなければならないのです。どうか・・・どうか、お願いです」
私は目を瞑り、顔の前で手を合わせると、心の中でひたすら彼の事を願い続けました。
私が縋れるものは、もうこの虹色の水溜りしかないのです。
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