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「・・・こ・・・さ・・・・美代子さーん!」
誰もいないはずだった土手沿いの道に、ふと声が聞こえたので前を見ると、こちらに走り寄ってくる人物が見えました。
その人物はそう―――
「博さん?・・・・」
「ただいま戻りました。美代子さん、やっと逢えた・・・戻ってくるのが遅くなってしまい、本当に申し訳ありません」
そう言って律儀に頭を下げてくれる人物は、先ほど私が虹色の水溜りに願いを乞うた人物、清水 博さんで間違いありませんでした。
彼は私が最後に見送った時と全く変わりない姿で、私の前に現れてくれました。
「・・・やっと帰って来てくれたんですね。私、嬉しくて嬉しくて・・・何と言ったらいいか。」
「美代子さんはずっと・・・ずっと、この町で待っていて下さったのですね」
「ええ、もちろん。博さんがお国の召集でこの町を出て行く時に、私と約束をしましたよね。私に、この町で帰ってくるのを待っていて欲しいと。私はずっと、この町で博さんの帰りを待っておりましたが、なかなか帰って来て下さらないので、何度もお迎えの方をお断りしていたのです。ですがそれももう、限界が来てましたので・・・博さんがこうやって逢いに来てくれて本当に、本当によかった・・・」
「そうだったのですね・・・それは申し訳ありませんでした。私もすぐに美代子さんの元へ帰りたかったのですが、私は最期まで祖国へ帰ることが叶いませんでした。ここに来るまで、ふらふらと見知らぬ土地を彷徨っていたのですが、先ほど綺麗な虹色をした水溜りがふと足元に現れて、この場所に連れて来てくれたのです。あれはきっと、神様がこの町に帰りたいという、私の願いを聞き入れてくれたのでしょう。美代子さんとの約束が守れて、私も本当によかった・・・」
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