3人が本棚に入れています
本棚に追加
捕らわれの。(純文学系、不思議な話です)
目を奪われるとは正にこういうことをいうのだろうな、なんて覚束無い頭に浮かべる。視線は耐えず彼女に奪われたままだ。
一目ぼれ、とも言えるだろうか。そんなロマンチックな雰囲気ではないけれど。
彼女は、塔の窓から僕より少し上を見ている。空だろうか、夜なのだろうな。深みのある青色の髪が夜風に吹かれていた。美しい彼女に似合わない窓の鉄格子が、彼女に儚さを与える。彼女はこの高い塔に、閉じ込められているのだ。
目をあわせられたらいいなと思う。彼女の目線がこちらを向いたなら、きっと僕は彼女の見ているものが見えるのだろう。月の光が明るい、自然が笑う世界が。
蔦の伝う螺旋階段は、所々崩れそうだった。それでも、勇気を出してこの階段を駆け抜けて、そして、彼女の首輪を僕が断ち切れたなら、僕はきっと王子様になるのだろう。運命を変えた僕に、彼女は恋をして、僕は退屈な日常を変えることができるだろう。
自分の煩いほどの鼓動が、突然聞こえなくなった。
僕は悟った、彼女と僕は違うことを。彼女が僕を見ることがないということを。
それでも、その透き通る肌に、水色の優しい瞳に手を伸ばしたい。大きな窓でよかった、彼女の足も見えるから。彼女の縒れて破れた服が見えるから。
しいていえば、もっと近くで。
そんな衝動が抑えきれず、手を伸ばしロープを潜ろうとした。
「お客様!」
突然、肩を叩かれる。
「あっ」
「申し訳ありません、お手を触れることは」
「……すみません」
「いい絵ですよね、私もこの美術館に勤めて長いですが、一番この絵が素敵だと思います」
最初のコメントを投稿しよう!