4・すれ違う良心

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4・すれ違う良心

 上海を舞台にした在日中国マフィア龍爪(りゅうそう)と中国諜報部が絡んだ人身売買事件から半年後の初冬。公安調査庁の双子調査員マーメイこと星川麻美(まみ)、メイヨウこと長谷川美友(みゆ)は臨時的に構えた中央合同庁舎内の住まいから離れて、すでに別々に暮らしていた。  姉のマーメイは元々双子二人で住んでいた品川区大崎の公安所有のマンションに戻った。地上20階タワーマンションの15階、3LDK。立地条件も通勤時間も申し分ないことで気に入っていたマンションだった。  天才ハッカーの異名を持ち、通信傍受や暗号解読、コンピューター関連の業務を主にするマーメイ。潜入任務や格闘を得意とする妹のメイヨウとは対照的であり冷静で理性的な性格だった。  今夜も自宅でパソコンの前に座り、何やらEメールでやり取りをしていた。その方法は公開鍵暗号方式と慣用暗号方式を併用し、安全性と高速性を両立させているPGPでのやり取りだった。とりあえずはこの方式であれば傍受される心配は無かったが、さらに内容の文書も一見、他愛の無い日常会話にすることで安全性を高めるという念の入りようであった。その文章の中にアナログ的に暗号を埋め込んで本来の伝えたいことを読み取らせる、いわば「なぞなぞ」も含まれているのである。  マーメイが考案したその暗号文章とは日常会話の英文の中のローマ字を拾って、それを再構成すると日本語による文章となるものである。つまり相手が日本語を熟知していないと解読できないものだった。  そんなやり取りを誰としているのかが問題である。その送り先はCIA本部だった。ただそれが本当にCIAなのかは確認をしてみようも無い。  それはある日突然来た。 「ん? 何これ?」  画面を突然ジャックされ、秘密鍵らしき符号が点滅している。 (私に? メイヨウに?)  その頃、二人で暮らしていたマーメイは混乱した。しかしメイヨウはその日は遅くなる予定だった。 (私だけが今ここにいることを知って送ってきたの?)  マーメイがその秘密鍵をメモするとそれは消えて通常画面に戻った。カメラで見られているか、公安調査庁内部の者だろうと思った。  メールボックスを開けてみるとやはり一通不審なメールが届いていた。先ほどの秘密鍵でそれは開くことが出来た。  メールは英文だった。
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