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 女将は震えていた。殺したはずの土屋を大口郵便局の近くで見かけたのだ。霧島青果店で買い物を済ませて変えるところだった。ワロドンかも知れない。ワンズギルドを手に入れてワロドンを倒さないと。同じような体験を3年前にした。野上って宿泊客だったのだが、彼は彼女の宿の悪評をブログにアップしていた。ブログを止めたいなら20万を払えって要求してきた。勿論、そんなこと出来るわけがない。『金を渡す』と深夜の大口城址に呼び出した。  そして包丁で刺した。  血を吹き出したから死んだのかと思ったら、首を絞めてきた。渾身の力で振り払い逃げたが、野上の死体は見つかっていない。    安田は七曲って定食屋で朝食を取っていた。  山川漬は格別だ。果肉は雪のように白い。秋から冬に育った大根を泥つきのまま、畑に櫓を組んで干し、冷たい風に晒す。水分の抜けた大根を軽く洗い、天日干しした後に塩をかけながらつく。クタクタになった大根を甕につけて半年発酵させるのだ。大学芋も甘くて美味い。夜だったら焼酎を頼むところだが、新茶で我慢しよう。  そして、炊きたての伊佐米と薩摩地鶏、カツオの本枯節でダシをとった味噌汁。  高城がやって来ておふくろの味Aを頼んだ。  安田が食べてるのはB。山川漬、大学芋、味噌汁、ご飯は一緒だが、薩摩地鶏ではなくブリのステーキがメインディッシュだ。 「腹へったな~」  高城が腹をさする。 「黒木が死んだな?」 「名医だったのにね?」 「赤井も死体で見つかったらしい」  赤井は高城の上司だった男だ。  妻は不治の病、さらに息子が交通事故を起こし多額の借金を抱えていた。  娘の黒木美穂を人質にして金を要求していた。  美穂は完全なるシモベと化した。  黒木ドクターの不祥事を知った赤井は、祁答院邸に黒木を監禁した。  しかし、昨日死体で見つかった。  安田はグラサンをかけていた。怪物をサーチすることが出来る。 「何か見えるかい?」 「高城の背後に蠅がいる」 「うわっ!怪物よりイヤだな?」  しつこい蠅だ。  高城の回りをグルグル旋回してる。  高城がげんなりする。 「大丈夫かよ?この店?」 「文句あるなら出ていけ」  ふくよかなおばちゃん店員が悪態をつく。    怒りのあまりに高城が男みたいな口調になる。 「腹壊したら責任取ってくれるんだろうな?」 「はぁ?ぼったくりですかぁ?」 「客を悪人するとは何事だ」
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