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 菱刈鉱山は日本最大の鉱山だ。金だけでなく銀も算出する。昭和40年より金属鉱業事業団が金鉱探査を行い、1981年には鉱脈が発見された。  住友金属鉱山により1985年より採鉱が行われている。2012年には新たな鉱脈も見つかっている。  かつてはトロッコを用いていたが、昭和40年以降はトラックを用いたトラックレスマイニング方式が導入された。  昔、金山巡りをしたことがある。  石見銀山は豊臣秀吉の弟、秀長が管理していた。  下部温泉は武田信玄の隠し湯とされ、金山を巡り武田、北条、今川の3つの勢力が凌ぎを削っていたのだ。湯の涌くところには金銀財宝が眠っている。  菱刈鉱山からも温泉が沸き、湯之尾温泉へ供給されている。  炭酸水素塩泉で無色透明で無臭。温泉特有の硫黄の香りはしない。  土屋は川内川右岸にある温泉街にやって来た。昔は間欠泉もあったらしい。 「2003年の豪雨でパイプラインが破損しましてね?あのときは大変でしたわ」  温泉旅館『陣』の女将さんがそう言っていた。  真備町も偉い目にあったもんだ。  この温泉街も第3セクターの支えなくしては復興出来なかっただろう。  バスに揺られて15分、栗野駅にやって来た。こじんまりとしたコンクリート造りの平屋だ。JR九州肥薩線の駅だ。  自動券売機も存在しない。 「めんどくせぇなぁ」  駅の裏には池がある。丸池と呼ばれ、名水百選にも選ばれているそうだ。  煉瓦造りの暗渠があり、翡翠色の水面に豚みたいにブクブク太った土屋の顔が写る。  湧水を溜めるため造られたようだ。  それにしても今回はラッキーだった。  土屋は名古屋に住んでいるのだが、駅前でくじ引き抽選会が行われた。それに見事当たった。  宿泊費が無料だ。ここのところ嫌なことばかりだった。まさか人を殺してしまうなんて思いもよらなかった。まぁ、あれはあのババアが悪かったんだ。  横断歩道もない道を渡ろうとしたあのババァが悪い。おかげで買ったばかりのスカイラインが血やら体液やらで汚れちまった。  認知症で徘徊癖もあったらしい。  介護する必要がなくなったんだ。むしろ、感謝してもらいたいくらいだ。  グサリ!  背中が熱くなるのを感じた。  痛い。  返り血を浴びた女が立っていた。  女将さんだった。ダガーナイフを土屋の体が抜いた。血が間欠泉みたいに吹き出た。 「あの世で反省しなよ?」
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