<一>

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「そう……長くはない」  彼の言葉に私ははっと顔をあげた。私の視線を受け止めたまま青年は何も言わない。漂うその言葉が重すぎて私は彼を見つめることしかできなかった。  飛行機と人間を爆弾として敵艦に落とす。それは戦術とは呼べない方法だ。資源も人間も限りがある。先のことを考えられない段階に日本は陥っているということ。  長くないと知りながらそこに身を置く意味と時間……これが絶望というものか。目の前の穏やかに佇む若者に誰が何の権利があって強いるのか。それに抵抗することは許されていない。  自分の運命は自分のものではないのか? 「食べる心配をしなくていいのはいいですね。家を継ぐことも大事な仕事です」  青年は話題を変えた。ほっと一つ吐息が漏れた。私は息を詰めていたらしい。  「食べる心配……まあ、そうだね。それは幸せなことなのだろう。だがね、食べ物があれば肉体は死なない。ただ……自由がなければ心は死ぬ。親の決めた知らない誰かと結婚し、子供を作って家を繋げていくだけの人生だ。それに意味があるだろうか」  青年は穏やかに微笑みながら言った。 「ええ、生きること……それだけで十分意味があります」  私はこみあげてくるものを必死に飲み込み、両拳を膝の上で握った。    
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