<七>

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 リビングの大きな窓から景色を眺める。焼け野原だった東京の姿はもうここにはない。無機質なビルが煙った空気を纏いそびえている。最近は戦後の復興というフレーズを聴くこともなくなった。  日本は最初からこの姿だったように当たり前にある現在。でも違うのだ。ここに辿り着くまで多くの命を礎にしてきたから今がある。  8月5日……彼が旅立った日。そして10日後に終戦記念日を迎える。たったの10日。毎年この日が来るたびに悔しい思いを噛みしめて来た。彼が最後にみせた泣き笑いの表情を心の中に抱きしめて強くなることを誓う。それが前に進む力になった。  飛行機を見送った川は今もあるだろうか。護岸工事が施され姿が変わっているだろう。私は50年近く経ってもあの土地に行けずにいた。行ってしまったら前に進むことができなくなりそうだったから。でも今なら?一線を辞した今なら向き合えるだろうか。  行ったところで何も変わることはない。頬に幾筋もの涙を流す彼の幻や、川辺に座り戦闘機を見送った自分の姿を見るだけだ。そこに意味はない。  ただ時をすごし、自分の命が尽きる日がくるのをじっと待つ。それがあとどれくらい続くのがわからないことがもどかしい。
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