<二>

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 ただ流れていただけの私の毎日に色がついた。たった一人で思考とジレンマに埋もれているだけの時間は会話によって喜びに変わった。  夜になるとひょっこり姿を見せる彼は名乗らなかったし、私の名前を尋ねることもなかった。だから私も聞いていない。自分の痕跡を残すことを恐れているのだろうか。それとも私を思いやってのことかと考え、自惚れが過ぎると己を窘めた。  彼が話すことを聞き、彼になら楽に話せることを気恥ずかしく感じながら自分のことを語る。故郷のこと、家族のこと、好きなこと、忘れたくないもの。  私はなるだけ希望や未来につながる言葉をださないように気を付けた。もし戦争が終わったら、そんなことを彼の前で言うわけにはいかない。私はこの夜の穏やかな時間を失いたくなかった。明日の夜もまた彼に来てほしかった。  だから慎重に言葉を選び彼に自分のことを話す。明らかに育った環境が違う私達だが、その相違すら面白く感じた。     
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