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その日、おれはまだ薄暗いうちに起きだした。周辺はミルクのような濃い霧に包まれている。庭に咲く梔子の甘い香りが、ペンションの中にまで漂ってきていた。
おふくろの趣味で、ペンションアイリスの庭には果物のなる木やいい香りの花が咲く木がたくさん植えられている。なかでもこの季節の梔子と、春先の沈丁花はおれも好きだ。金木犀の香りだけはちょっと苦手なんだけど。
階段を降りて客用のリビングの横を通ると、ソファで珈琲を飲んでいたらしい宗像さんと目が合った。
「おはようございます。早起きですね」
「おはよう、櫂くんも早いね。これから学校?」
「はい」
「櫂、今日は朝練あるんでしょ?」
キッチンからおふくろがひょっこり顔を出す。それと一緒に、オムレツを焼くバターの香ばしい匂いがこっちにも流れてきた。
「朝ごはん、どうする?」
「んー、一応食べる」
ふわあと大あくびが出る。ゆうべ、菖浬に付き合ったせいで睡眠不足だ。
「ごはん? パン?」
「パンでいい」
言いながら、宗像さんに会釈をしてキッチンに入る。家族用のリビングはその横なのだ。
すると、おれの背中越しに宗像さんが呼びかけてきた。
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