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滴り落ちるような艶のある木々の葉が、神社の長い石段に影を落としていた。
石段の両脇には、菖蒲(あやめ)の花が紫色の絨毯のように咲きほこっている。
このあたりは毎年菖蒲の時期になると、週末ごとに観光客が押し寄せる。このあやめ野市の数少ない観光名所だ。
おれはその石段を、一段飛びに駆け上がっていた。顎を伝って汗がだらだら流れる。手に提げた白いビニール袋が左右に大きく振り子のように揺れて、体のあちこちにぶつかった。でも今は、そんなことにはかまっていられない。
鳥居をくぐり抜け、石段をのぼりきった先には、広い境内が広がっている。
桜のご神木の根元に腰をおろしていた幼なじみが、汗だくのおれの顔を見るなり、嬉しそうに手を振った。
「こっちこっち。おつかれさん、櫂(かい)」
「菖浬(あいり)、おまえなあ、人をこき使いやがって」
「だって、櫂の方が足速いんだもん」
ビニール袋を受け取りながら、菖浬は微笑んだ。
柔らかな前髪がさらりと揺れる。
昔からよく女の子に間違われていた菖浬は、高校生になった今でもまったく男くささを感じさせない。本当に同じ生きものなのかと、時々疑いたくなる。
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