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「朝練って。櫂くん、運動部なんだ」
「はい」
「何部?」
「野球ですけど」
「へえ、奇遇。おれも中学までは野球部だったんだ。まあ、万年補欠だったけどね。櫂くんのポジションはどこ?」
「キャッチャーですよ」
「おお、そりゃすごい」
「ちょっとちょっと櫂。はやくごはん食べないと、遅れるわよ」
「はいはい」
パンとオムレツを口に詰めて牛乳を流しこみ、おれはさっさと席を立った。
宗像さんも立ち上がる。
「途中まで一緒に行こうよ。ちょうど、朝の散歩に出ようと思ってたんだ」
「――えふい、ひいえふえど(別に、いいですけど)」
口をもぐもぐさせながら、おれはとりあえず頷いた。
そのときはまだ、どうして宗像さんがこんなことを言い出したか、おれにつきまとうのか、あまり深くは考えなかった。
ただ、人魚なんてものの研究をしているだけあって、変わり者だなと思っただけだった。
「いやー、さすがにこのあたりは『霧の森』と呼ばれるだけはあるね。すごい霧だ。車なんかは大丈夫なのかなあ」
自転車を引くおれの横に並んで歩きながら、宗像さんはきょろきょろと周囲を見回す。
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