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んだのです。私はシャッター音と共に恋に落ちてしまいました。まるでそのシャッター音は恋愛映画の撮影開始に映画監督がカチンコを鳴らしたかのようでした。
「邪魔、でしたか?」
彼はまだ少し微笑んだまま、こちらに小さく会釈しながらそう言いました。
「いえ、あの、はい」まさかこのような展開になるとは思わなかったものだから、言葉なんてうまく出ては来ません。
「失礼。もう行きますから」
彼は相変わらず微笑みながら軽く右手を挙げて謝ると、その場から去って行きました。思わず、はい、と答えてしまったその失礼で図々しい回答に笑顔で返したあの人は大人なのだと自分の幼さを少し恥ずかしく感じました。あの人は何で暫くの間、紫陽花を見つめていたのかな。単純に綺麗だから、それだけではない気がしました。もしまた会えたなら、聞いてみたい。もし、また会えるのなら次は。
そんな思いに駆られて気付くのが遅れてしまったけれど、辺りは雨の匂いに包まれていました。一緒にこの場所に訪れた蛍には申し訳ないけれど、この日はこの時以降、味気ない一日となってしまいそうでした。突然の雨で服も濡れてしまって、いい日だったのか悪い日だったのかよく分からない日となってしまいました。
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