紫陽花とダンディー

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紫陽花とダンディー

私が好きになったあの人は雨が似合う人でした。 「紫陽花の花言葉は辛抱強い愛情なんだよ」と、いつしか私のおばあちゃんが話していました。今なら私、分かる気がします。 彼に出会ったのは雨が続く六月の半ばで、場所は紫陽花が綺麗なお寺でした。友達の蛍と私は学校の振替休みに新しく出来たカフェに行こうと、まるで遠足にでも行くかのような準備を互いにして鎌倉へ出かけました。写真部で主に花を撮ることを好んでいた私たちは、朝八時に鎌倉に着くと、紫陽花目当てに明月院へ向かいました。私は到着するやいなや、まだ朝露が残る紫陽花の写真を撮ろうと紫陽花にレンズを向け、夢中で花を撮りました。そしてここだと言わんばかりの、一番良い角度を見つけたとき、その人はその場所に立っていました。少し日焼けしていて、黒髪で顎髭を蓄え、黒縁のメガネ。真面目そうだけれど、どこかワイルド。一言で言うならばダンディーな彼は、中々その場から離れようとはせず、カメラをわざと構え続けてカメラのプレッシャーを与えてやる!そう思って咳ばらいをしながらカメラを向けたのに、彼はこちらに気づくと無邪気な笑顔でこちらに微笑     
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