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そこでオロチは目が覚めた。
伸ばした手はむなしく宙を掻き、枯れ木のように床の上に落ちる。手首にはめられた木の枷が床にぶつかって、がたんと耳障りな音をたてた。頭から浴びせかけられた水が、髪を伝い口の中にまで入りこんで、幾度かむせる。
「おい、いつまでそうして狸寝入りしてるんだよ、この蛇小僧が」
いきなり無造作に髪を掴まれて、ぐいと力任せに引き起こされた。
皮膚が引きつれる痛みに、声にならない悲鳴が漏れる。
目に飛びこんでくるのは、さっきまで夢に見ていた青い空ではなく、鼠色をした石の壁だった。頬に感じるのも、あたたかな春の風ではなく、濡れた床の冷えた感触だ。
ここでは太陽も星も、月さえも見えない。
蝋燭の炎を反射して時折きらりと光るのは、換気口を兼ねた明かり取りの窓に張った蜘蛛の巣だけだ。
「おら、さっさと起きろ!」
いつまも起き上がらずにいると、男は焦れて、また怒声を上げた。
「いいかげんに起きろっつってんだろ。この弥次郎さまの手を煩わせるつもりかあ?」
卑屈な笑い声をともに、腹を踏まれる。
ぐっ、と咽喉の奥から嫌な声が漏れた。
苦いものが胃の奥からこみ上げてくる。
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