プロローグ

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 ぼんやりとしていると、まっすぐこちらに向かって歩いてくる背の高い男が目に入った。父と同じくらいの年齢に見えるので、会社関係の人かもしれない。高校の制服を着ているのは自分しかいないから、息子だと察して挨拶にでも来たのだろうか。  なんとなく身構えていると、隣の友宏が不意に立ち上がった。無言で傍に寄って頭を下げる。男は友宏をじっと見た。親子ではなさそうに見えた。 「大丈夫か」 「……はい」 「こっちには始発で?」 「新幹線、夜は終わってて……。あ、喪服、事務所から借りました。あとで買い取ります」 「そんなのいい、やる。それより、お前家に帰れるか?」 「あ……」  男は友宏の肩を軽く叩いた。友宏は口元を手で覆って、泣くのを耐えているように見えた。  不意に男が睦月に気づいた。睦月の顔を見た途端驚いたような顔をして近寄って来たので、なんとなく立ち上がって会釈した。 「速風睦月君で、合っているかな」 「はい」 「私は光司君の仕事相手というか……契約してる事務所の代表をしています。この度は、ご愁傷様でございました」  丁寧に頭を下げられて、睦月もまた頭を下げた。兄は確かモデルか何かをしていた。友宏もそういった仕事をしているのだろうか。  少し離れて立つ友宏に視線を向けると、口元を覆ったまま立ち尽くしていた。喪服の背中に言葉にしてはいけないような何かを感じて、睦月は男を見上げる。 「あの……友宏、うちの控え室に泊まってもらっても大丈夫ですけど」     
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