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 クーラーをつける季節になってわかったが、睦月は寒がりなだけじゃなく、暑さにも湿度にも冷房にも弱い。暑い日は床やソファにへばってぐったりしているくせに、冷房の風が直接当たるとクッションを抱えて寒そうに縮こまる。前髪が汗で額に張り付いていたので指先で避けてやった。寝顔が火照って真っ赤だ。その顔が光司と重なって、夢の中ののぼせた表情を思い出していたたまれなくなった。いや、睦月の方がいくらか幼く清潔な顔をしている。光司はもっと図々しくてだらしない顔をしていた。そのはずだ。  エアコンをつけた。睦月は風が当たるとなめくじみたいに縮むので、風向きを調節して直接当たらないようにしてやる。カーテンをすこし開けると雨が降っていた。近頃気温はどんどん上がるのに、まだ梅雨は明けない。  中途半端に勃ったままだったのを収めてベッドを出た。  ベッドサイドには睦月のスリッパが、脱いだままの形で散らばっていた。  睦月は友宏がシャワーを浴びている間に起き出していた。黙って食卓に突っ伏していたが、いつものことなので放っておく。睦月は寝起きがとんでもなく悪い。放っておけばそのうち動き始めるので、最近は睦月から声をかけてくるまでは特に気にしないことにしている。エアコンをつけていても部屋の中は雨の気配で蒸し暑い。睦月は長袖のパジャマに薄いカーディガンを羽織っている。 「友宏……今日は」  地獄の底から声がした。 「昼過ぎから仕事。メイン夕方だから、夜かな、帰ってくるの」 「うー……わかった……」     
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