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 地獄の底から這い上がってきた睦月は机から体を起こしてしばらく停止した。ベッドの中で真っ赤だった顔は今は紙みたいに真っ白だ。本人曰く低血圧と低体温で、動けるようになるまでに寝起きからしばらくタイムラグが発生するらしい。面倒そうな体だ。 「シャワー浴びたら」 「……いま浴びたら死ぬ」 「そ。俺コーヒー飲むけど」 「牛乳チンして……」 「メシは? 俺適当に食ってくけど」 「無理……お腹冷たい」  睦月はあまり食事をしない。気がつくといつも牛乳を飲んでいる。七割くらいは牛乳で生きているのかもしれない。  睦月の電源がまた切れたので、立ち上がって自分のコーヒーを淹れながら牛乳を電子レンジに入れた。冷蔵庫から卵を三つとる。ゆで卵にしておけば睦月も体の電源が入ったあたりで勝手に食べるだろう。 「あー……、紙書かなきゃ……」  真っ白な顔のまま睦月はのそのそ立ち上がって、テレビの部屋に一度消えた。しばらく物音がせず、寝落ちたかな、と思ったあたりでまたずるずると戻ってきて机に突っ伏す。何かの広告みたいな紙とボールペンを持ったまま数秒停止して、突然がばっと顔を上げたのでびっくりした。 「起きた」 「お、おう、大丈夫?」 「大丈夫……ちょっと血が巡ってきた……」  電子レンジがピーっと間抜けに鳴った。起きたとは言うものの欠伸をしている睦月に牛乳のマグカップを渡すと、掠れて聞き取りにくい声で礼を言われた。     
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