プロローグ

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 今日このまま、あの背中を帰してはいけない気がした。  喪服を着た黒い背中は、どうしようもなく一人ぼっちに見えた。 「おれも泊まるし、父も、断らないと思います」  睦月の言葉に男は眉を上げた。 「あ、友宏とは中学の同級生で」  男の表情に焦って、取り繕うように言った。友宏に何か家に帰れない事情があるのなら、泊まってもらっても構わなかった。光司の恋人だったのなら、きっと離れたくないだろう。 「なるほど。……友宏、そうさせてもらいなさい」  男は友宏を振り返って軽く手振りで呼んだ。 「光司のお父さんには俺からも頼んでおこう。今日はここに泊まらせてもらいなさい。俺も明日の告別式には来るから」 「はい……すみません」 「睦月君、よければお父さんのところに案内して貰えるかな。ご挨拶もまだでね」 「あ、はい」  睦月はなんとなく友宏を見た。苦いものが込み上げたような、涙を堪えるような顔をしていた。 「友宏、おれ、父さんとお母さんに話しして来るから、ここ座ってて」     
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