2

33/56
前へ
/274ページ
次へ
「必要だと思って。おれ、もしかして邪魔だった? 別に実家行ってもいいけど」  申込書を書きながら睦月はなんでもないことのように言う。あまりに軽く言われて少し焦った。睦月を邪魔に思うとか、そんなつもりは微塵もない。 「いや、正直助かってるけど、嫌じゃなかったの」  普通に考えて、兄の恋人と暮らすなんて考えられないはずだった。全く知らない仲ではなかったとはいえ、親しく話したこともなかったのだ。  友宏自身は、言葉通り助かっている。きっと一人では先日の舞台は終えられなかった。ずっと家にいた睦月が無言で身の回りのことをしてくれていたのも知っている。礼を言うと真面目に首を傾げられてしまうので話題にはしないが、終電で家に帰ると電気がついていて、眠そうな顔の睦月が待っているというのは相当な安心だった。睦月がぼんやりした顔でそこにいたので、友宏は家にいる時だけはなにも考えなくてよかった。仕事のことも、光司のことすらも。 「普通、兄貴の恋人と同じ家とか、同じベッドとか嫌だろ」     
/274ページ

最初のコメントを投稿しよう!

933人が本棚に入れています
本棚に追加