2

34/56
前へ
/274ページ
次へ
 今日まで気にしたこともなかったが、普通は友達と同じベッドで眠るなんてことはしないはずだった。引っ越してきたときの睦月に選択肢はなかったし、いまからベッドや布団を買おうにも大々的に模様替えをしないと置く場所がない。睦月が引っ越してきた頃の友宏にそこまで考える余裕はまるでなくて、睦月もそれについては初日以外は何も言わなかった。  いまは当たり前のように並んで眠る。違和感を覚えるどころか、隣で睦月が眠っていることを心地よくすら感じる。睦月がここにいるということが、友宏の中では既に安心のひとつになっていた。睦月はどう思っているのだろう。  兄の恋人と一緒に眠るということに、なにも思わないのだろうか。 「今朝、なんか寝言聞こえてたけど、光司の夢でも見た?」  睦月が表情の無い視線を寄越した。その言葉に、思考が一瞬でばらけた。 「え? なに、起きてた?」 「半分くらい。動けなかったし喋る元気もなかったけど」  ベッドで睦月の毛布を捲ったことを思い出した。完全に寝ていると思っていたが、そういえば睦月は起きてから実際に目が開いたり動き出すまでに時間がかかるのだ。 「おれが隣で寝てると欲情しちゃう?」  まるで感情が読めない声で睦月が言う。背筋が冷たくなった。睦月の声は張りがなく平坦で、そのぶん焦る心に正しく突き刺さる。 「いや、お前と光司、全然違うし、それは、無いけど」     
/274ページ

最初のコメントを投稿しよう!

933人が本棚に入れています
本棚に追加