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 光司が死んでから今日になるまで、あんなに鮮やかに光司の夢は見たことはなかった。睦月と光司は確かに顔のつくりは似ている。しかし、背が高く表情豊かだった光司と違い、睦月は小柄で表情もほとんど動かない。声だって、光司は体の深いところから響く低い声をしていたが、睦月はどこか気が抜けるような、腹筋の存在がまるで感じられない中性的な声をしている。 「おれはどっちでもいいよ。実家行っても、このままここで暮らしても。でもおれ童貞だから、エロいことはできるかわかんないけど」  睦月は天気の話でもするように言う。 「は?」 「必要なら言ってくれればなんとかなるかもだけど、さすがに試したことないからわかんないし」 「待って、お前なんの話してんの」 「恋人と似たような顔のが隣で寝てたらキツい日だってあるんじゃない?」  本当に、なにを言われているのか分からなかった。 「おれ、今日外で夜ご飯してくるけど、友宏よりは早く帰ってくるんじゃないかなぁ」  なんでもない話題のように流して、睦月は紙とペンを机の端に寄せて立ち上がる。マグカップを台所に下げて、「これもう固茹でじゃない?」と言いながら付けっ放しだったコンロの火を止めた。卵が入った鍋のお湯を捨てて流水で冷やす。そのままなにも言わずに睦月は風呂場へ消えて、シャワーの音が聞こえてきた。雨の音に混じるシャワーの音を聞いて、友宏はため息をついた。  寝言なんて、正直覚えていない。でもきっと、ヤバいことを言っていたんだろう。  いまのは睦月なりの冗談なのだろうか。     
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