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 しかし、睦月はそんなこと言うタイプではないような気がした。  睦月と暮らし始めて四ヶ月ほどになる。しかし、考えてみれば友宏は、睦月のことをなにも知らない。  優しい奴だとは思う。葬儀の日から今日まで、友宏は睦月の細やかな優しさに助けられ続けてきた。それなのに全然押し付けがましいところがなくて、本人も主張しないので、気づかずに甘えてしまっている部分もたくさんあるような気はしている。  この暮らしが睦月の望むものではないとしたら、どうしたらいいのだろう。  いまの言葉が冗談であればまだいい。しかし、本気で言われているのだとしたら、友宏には睦月がまるで理解できない。  必要なら言ってくれればなんとかなるかも。  まるで他人事のように、天気の話でもするように平坦に言われて、どう答えるべきかわからなかった。  冗談でないのだとしたら、セフレということだろうか。それとも、別の意図があるのだろうか。  睦月がわからない。  本人がいないところで考えても仕方ないので、とりあえず立ち上がった。出しっ放しの蛇口を止めて、冷えたゆで卵を剥く。  仕事に行こうと思う。  今日は週一のネット番組の撮影だ。その後事務所に寄って、前回の舞台で貰った手紙や差し入れを受け取って来なければならない。     
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