プロローグ

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 友宏は顔を上げて何かを言おうとしたが、肩を押してロビーのソファに座らせた。真っ青な顔がかわいそうで心配だったが、いきなり親族控え室に連れていって気まずい思いをさせるよりは、ここに座って落ち着いてもらったほうがいいだろう。 「こっちです」  男を伴って親族控え室へ向かった。ぼろぼろの母と、母の姉であるところの伯母と、まだなんとか社交性を保っている父がいるはずだった。 「君は気がまわる人だね」  不意に男が言った。 「光司と友宏は一緒に住んでたから」  ああ、それで。思わず言いそうになったが、黙っていた。光司は父と一緒には住んでいなかった。睦月の卒業を待って家族が同居する、という話の中に、光司は入っていなかった。高層マンションの一室にある父の家に行ったときには光司もその場にいて、自分が数ヶ月使ってた部屋があるからそこを睦月の部屋にすればいい、と笑っていた。 「私が言うのもおかしな話かもしれないが、今夜、友宏のこと、頼めるかな」 「はい……おれでよければ」  一緒に住んでいたのなら、恋人のいない部屋に一人で戻るのは辛いだろう。もう二度と、光司は帰らない。     
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