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 恋人に捨てられた人間ならばまだわかる。母は年中恋をしているか失恋をしているかだったし、物心ついた頃から常に父親候補は何人もいた。本当に再婚したのは今回が初めてだが、いつでも母の隣には誰かしら知らない男の人がいた。息子がいると知って消えた男も何人も覚えている。その度母は傷ついてぼろぼろになって、睦月に縋って泣いて過ごした。失恋した人間の扱いは、だいたいわかっている。  しかし、捨てられたわけでもなく、自分から嫌いになったわけでもなく、突然存在だけがなくなるというのはわからなかった。現実に、友宏は光司を嫌いになんてなっていない。 「睦月さあ、優しいよね。普通、家族が亡くなったのに他人のことなんて考えられないよ」  付け合わせの人参を食べながらマミが言った。その視線がこっちを向いていないことにすこし安心する。結構重たい話なのに、マミは、食事の片手間、というポーズを取ってくれている。 「おれと光司、知り合って半年経ったかなってとこだったし、五回しか会ったことないし。一緒に暮らしてた人間の方が何倍も辛いでしょ」 「辛さとか寂しさとかってさ、数とか期間とかで測れなくない?」  気づけばマミはもうデザートに取り掛かっていて、睦月は存在を忘れていたスープにスプーンを入れた。スープは冷めていた。 「なんかごめん、暗い話になっちゃった」  プリンを食べるのに夢中なふりをしてしっかりと話を聞いてくれているマミは、へら、と気が抜けた笑顔を見せた。 「いいよぉ。睦月こんなんなのめずらしいし、たまにはね」     
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