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 マミは逞しくて優しい。プリン一口いる? と聞かれたので、食欲はなかったけれど少し貰った。甘くて美味しかった。 「睦月さ、ほんとに疲れた顔してるよ。ちゃんとご飯食べなよね」  結局数時間、マミと毒にも薬にもならない話をして、他に何事もなく駅で別れた。   一人でホームの列の一番前に立って、錆びたレールを見下ろした。  光司はホームから転落した。子供を助けようとして、鉄のレールに頭をぶつけて二度と起き上がらなかった。子供だけ助けて、自分は助からなかった光司。  光司は優しかった。片手で数える程しか会ったことがない睦月でもそれは実感として覚えている。光司は華やかで優しく強引で、気付いたら睦月は光司の懐の中にいた。光司の隣は安心で、そこでは睦月は何もしなくてよかった。他人に気を使わせず、自分もまた気なんて使わなかった光司。光司はいつも優しい目で笑っていて、警戒心を持てという方が無理だった。光司に見つめられたときの安心を、睦月は覚えている。  そんなのが突然死んで、いなくなって、普通を装っていられる友宏は、本当はどんな気持ちなのだろう。  夢の中、甘えるような声で呼んで、光司は友宏にどんなふうに答えたのだろう。  睦月にはわからない。光司のことも。友宏のことも。  言わなければよかった。  ただ黙って隣にいればよかった。     
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