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 睦月が詳しく聞きたそうにしたが、それどころじゃないので写真に集中した。加工アプリを使っても、友宏は写真が苦手だ。  苦労して何枚か候補を撮り終えると、待っていた睦月が不思議そうに言った。 「なんかいい匂いする」 「え? ああ、貰った入浴剤使ったからかも」  写真を眺めながら答えると、不意にうなじに気配を感じた。  耳のすぐ後ろに触れるような体温の気配。図々しい程に近い距離。  驚いて振り向くと睦月がすぐ後ろにいた。 「うん、似合うな、この匂い」  額が触れそうなほど近くで睦月は首を傾ける。感情の見えないあかるい色の目が細められて、それで笑ったのだとわかった。少し伸びた柔らかな猫っ毛が耳のあたりでくしゃくしゃに揺れた。 「おれも風呂入ろ」  あっさりと睦月は離れた。呟いた声が、いつもより低く聞こえた。  睦月が風呂場に消えて、友宏は思わずうなじに手を当てた。乾かさないまま半端に濡れた髪に、睦月の鼻先を感じた。それくらい近くに睦月は来ていた。  睦月はこんな距離感のやつだったろうか。  不意に、光司の匂いを思い出した。     
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