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 睦月は光司と五回しか会ったことがないと言っていた。それでも光司は睦月の兄で、血の繋がった家族だ。仲良くなりたい。光司は言っていた。光司が言うのなら、きっと睦月は散々光司に構われていたはずだ。赤の他人でしかない友宏と初めて会った時でさえうるさいくらいに構ってきたのだ。たった五回の中でさえ、光司は睦月を強烈に愛したに違いない。光司はそういう奴だ。相手のことなんて構わず傍に寄って、愛して、相手の心を丸ごと奪ってしまう。勝手にこっちの人生に上がり込んで当然のように心に居座る。光司は優しくて強引で、とんでもなく美人で、あんなのに本気で愛されたら好きにならずにはいられない。  睦月だって、自分と同じく光司を失っていた。  今更それに気づくだなんて、自分はどれほど余裕がなかったのだろう。確かに忙しかったけれど、こんなにも睦月に甘えていただなんて、本質的に気づけていなかった。  睦月は、どんな奴なのだろう。  友宏は睦月のことを知らない。四ヶ月一緒に暮らしてさえ、睦月は聞かなければ自分のことを話さない。ぼんやりとした顔でそこにいて、ただ友宏のことを待っている。おかえり、と言う声にも視線にも感情が乗らないので、友宏は睦月が何を考えているかわからない。今朝までそのことを、気にしたことすらなかった。  睦月の感情を見たのは、初七日のときくらいな気がした。  ここに一人で住まわせておくわけにはいかない。そう言われた友宏を見て淡々と話した睦月は、いま思えばたぶん怒っていた。  風呂の扉が開く音がして、思考は急に中断された。  パジャマを着た睦月が髪を拭きながら出てきた。いつも通りの無表情に、濡れて癖が強くなった髪が光司に似ていた。 「あれ、ドライヤーこっちかと思った」 「あ、ああ、忘れてた」     
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