プロローグ

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 親族控え室の扉を開けると、母が泣き疲れて座っていた。睦月が父を呼ぶと、隣の男を見た父は慌てたように立ち上がった。男は深く頭を下げ、二人が何事か話し出すのを見ながら睦月は母の傍へ行った。母の隣では伯母がずっと母の背をさすっていた。母はどう見てもよれよれのぼろぼろで、小柄で華奢なのも相まって、今にも倒れそうに見えた。 「お母さん、今日はおばさんの家に泊めてもらいなよ。疲れたでしょ」 「やだ。光司と一緒にいる。こうちゃん、寂しがるでしょ」  母の中で、光司はどうやら以前父と離婚した時の三歳児のままであるようだった。 「大丈夫だよ。おれと父さんが泊まるから」  睦月は数珠を握りしめる母の手を握った。母の手は氷のようだった。泣き続けていた母は化粧もはげて、髪も顔もぼろぼろで、やつれてかわいそうだった。 「やだ、むっちゃんまでいなくならないで」 「いなくならないし、明日すぐ会えるから。このままここに泊まったら体壊しちゃうよ」  母がまたぐすぐすと泣き始めた。それを宥めながら入口の方を見ると、父と男はまだ話を続けていた。睦月は母を伯母に任せ、父の喪服の袖を引いて耳打ちする。 「お母さんをおばさんの家に送って来る。ついでに家に寄って友宏が着れそうなジャージみたいなの持って来るけど、なにか必要なものある?」 「いや……睦月」 「表のとこにタクシーいるよね。裏口の方に回してもらって、ロビーの友宏もこっちに連れてくるよ。友宏、食事の方よりこっちの方が落ち着くだろうし」  友宏のことは男が話しているだろうと思った。     
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