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「一人で泣くとさ、寂しいだろ」  きっと、光司はそう言った。嬉しい時も悲しい時も、悔しい時でさえも、光司は友宏を一人にはしてくれなかった。それが結構うざったくて、それ以上に幸福だった。好き勝手に甘やかされて、幸せだった。  いまこんなに悲しいのに、違和感にぞっとして気持ち悪くて仕方がないのに、光司はもういない。大きな手で背中を叩いてくれることはない。低く甘い声で名前を呼んでくれることもない。友宏が光司を呼んだとしても、返事はどこからも返らない。  いま友宏を抱きしめる体は光司よりずっと小さい。隣に立つだけで香ったあの香水の気配もない。  夢の中で幸福そうに笑う光司を思い出した。  友宏を押し倒して、キスをして、好き放題に触って、大好きだと、嬉しいと囁いた光司は、どこにもいない。  目の前にいるのは、光司ではない。 「睦月、やめて」  かろうじて言った。  背中に回された腕から力が抜けた。目の前の小さい体から、一気に親しい気配が抜けた。ゆっくり相手を押しのけて、息を吐いた。  足元がぐらつくようだった。酸欠のときのようにふらつくのをなんとかこらえて、睦月の肩を掴んだ。これ以上傍に寄られないように。 「お前……なんで、こんなことすんの」     
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