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 睦月が無表情に視線を寄越して手を振ったので、思わず自分のスマホのメモを起動した。睦月が電話口で日付と人の名前とデパートの名前を復唱するのをあわててメモする。視線で大丈夫か聞かれて、流されるまま頷いた。睦月はそれから軽い小言を聞き流すような顔をして、ごく普通に電話を切った。 「ありがと。いまのラインで送っといて。初盆法要、八月十三日だって。おれ喪服買わなきゃ」  先ほどのことなんてなにもなかったかのように睦月は呟いて、頭乾かしてくる、と洗面所に消えた。  どうしていいかわからなくて、友宏は呆然と突っ立っていた。  洗面所の方からドライヤーの音が聞こえてきて、ようやく我に帰った。  いまのはなんだったのだろう。  睦月は、一体なにをしようとしたのだろう。  突っ立ったまま口元を押さえた。  先ほどの睦月のキスが光司の記憶と重なって、苦しかった。
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