プロローグ

14/25
前へ
/274ページ
次へ
「通夜振る舞いって、お酒も出るんでしょ。お母さんもう色々無理になってるから、いない方がいいと思う。妻がいなくて格好つかないかもしれないけど、ごめんね」  睦月が言うと、父は妙な顔をした。それでもなにも言われなかったので、睦月は母の元に一度戻り車を回してもらうことを伝え、父に何か話している男に軽く会釈をして控え室を出た。  ロビーのソファには友宏がまだ座っていた。声をかけようとすると、背後から父に呼ばれた。 「睦月、待ちなさい」  振り返ると父が慌てて追いかけてきていた。 「睦月……、その、そんなに気を回さなくてもいい。睦月だって疲れてるだろう」  別に、気を回しているという意識はなかった。母にこの手の段取りは無理だし、伯母だって母を慰めるのに忙しい。早期退職しているとはいえ証券会社に長く勤めていたらしい父は、葬儀でも様々な付き合いがある。 「大丈夫。それに、動いてた方が楽なの」  半年前に会ったばかりの父は、またもや妙な顔をした。悲しみと苦しさが混ざって怒ったような感じだった。 「父さん、頼むね」  睦月は父に背を向けて、友宏へ近寄った。友宏は少し落ち着いたらしく、近づくと気付いて顔を上げた。     
/274ページ

最初のコメントを投稿しよう!

933人が本棚に入れています
本棚に追加