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「睦月って、高校のときはだけど、女子との方が話しやすかったみたい。ほら、睦月ってずっとお母さんと二人暮らしだったし、なんていうのかな……。ぼんやりしてるけど、なんかあったら察してくれるんだよね。もう無理ってときに黙って隣にいてくれるの。で、待っててくれるの。話しても話さなくても、元気になるまでなんとなく近くにいてくれて」  それは、体験として知っていた。睦月は黙って傍にいる。黙って家にいて、友宏のメンタルが持ち直すまで細かく気を回してくれていた。ベッドに押し込まれた日以外になにか特別なことをされた覚えはない。それなのに随分と暮らしやすかったのは、いま思えば睦月が家事や身の回りのことさりげなくやっていてくれたからだった。前回の舞台であれだけ無茶をして稽古場に夜中まで居続けたのに、家に帰ればきれいなベッドと風呂があり、友宏は何も考えずにいることができた。あれはすべて睦月のおかげだ。 「独特の近さっていうのかな……女の子同士って男子からしたらウザいくらい距離近いと思うんだけど、睦月ってその距離に平然といるっていうか……でも、男の子同士だとあれ、ウザいのかも」 「いや……俺も変な奴だなあとは思ってたけど、ウザいって思ったことはないな」  ウザいと言えば、光司の方が百倍くらいウザかった。気がついたら誰よりも近くにいて離してくれなかった。考えてみれば睦月も似たような距離にいるはずなのに、そんな押し付けがましさは一度も感じたことがない。睦月は空気みたいにさりげなく近くにいる。その近さに油断して、なんでも話してしまう。     
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