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 友宏自身、聞かれたとはいえ光司との馴れ初めを見せるとは自分でも思っていなかった。キスフレの録画はもともと光司が勝手にしていたものだ。あの日の放送だけは、友宏は家族にだって教えなかった。あれが放送された日には、友宏はもう光司の隣にいた。あの家の中で、光司のものにされていた。地上波で放送されたものだし、光司も自分も仕事の顔をしてはいるが、あれはあまりにも恥ずかしかった。仕事とはいえ、あの日の出来事は友宏の中ではあまり他人に見せたくない類の大事なものになっている。  マミが目の前で少し目を伏せた。何かに迷うような仕草に、友宏は促すように首を傾げてみる。気づいたマミが困ったように笑った。ストローでアイスコーヒーをかき混ぜて、視線を落とす。 「睦月ってさ、たまにすっごい顔で学校来ることあったんだよね。どうしたのって聞いたら、そういう日は大抵夜中じゅう起きてたって言って。お母さん迎えに行ってたり、家にいてもずっとお母さんの話聞いてたりして、気づいたら朝だったって言うの。睦月のお母さんて見たことある? すごい顔似てるんだけど」 「ああ……うん、全然話したことはないけど」 「多分だけど、私も詳しく聞いてないし、睦月もよくわかんないって言ってたけど、あのお母さん、あんまり頼れないっていうか……睦月、たぶん、ずっと大変だったんだと思う……」     
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