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 何度か見たことがある睦月の母親を思い出した。まともに会話したことがあるわけではないが、遠目に見ても浮世離れしたところがある女の人に見えた。光司もだいぶ浮世離れした美人だったし、睦月も見た目は男か女かわからないようなところがあるから、そういう遺伝なのだと思っていた。睦月に似てぼんやりした顔をして、光司の年齢を考えれば若く見積もっても四〇歳は超えているだろうに少女のような雰囲気で、恐ろしく美人だった。母親、という言葉があまりにも似合わないと思った。  むっちゃんが友宏くんにとられちゃった。  そういえば、睦月の母は以前そんなことを言っていた。 「普通さ、そんなに親が大変だったら病むじゃん。でも、睦月っていつも普通なの。いつもぼーっとしてて、なんか、辛いとかしんどいとか、ぜんぜんわかんないみたいで。なんで? って言うんだよね。私、弟ふたりいるんだけどさ、男の子ってもっと……あんなんじゃないよなって」  無表情のまま首を傾げる睦月を思い出した。睦月は視線に感情がこもらない。その分言葉に感情が依存する。睦月が何かを聞く時、睦月の中にはそれ以上の意味はまるでない。唐突にキスをされたあの夜だって、睦月はきっと本気で言っていた。  おれ、なんか変なことしたかな。  あの言葉に、それ以上の意味なんてなかった。 「去年……十二月とかだったかな。お母さん再婚するとか言ってて、お兄さんできるって。一回ね、お兄さんが学校の正門前で待ってたことあったの。マスクしてたけど、あれ、速風光司さんだったんだね。その時ね、睦月、お兄さんとこ走ってって、すっごい嬉しそうな顔してて、みんな驚いたの。睦月、いつもぼーっとしててだるそうで無表情なのに、あんな顔するんだって」     
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