3

9/71
前へ
/274ページ
次へ
 マミが俯いたまま笑う。 「睦月ね、きっと嬉しかったんだと思うんだ。いま考えたら、睦月が聞いてもいないのに自分の話することなんてなかったし、自分から親が再婚するとか、家族増えるとか言ってて、なんか、きっと、思ったんじゃないかな。私、睦月が走って人の傍に行くとこなんて見たことなかったもん」  光司の隣で笑う睦月を思い浮かべた。睦月は笑わない。四ヶ月ほど一緒に暮らしていて、友宏は睦月の笑顔なんて全然見たことがない。よく観察すればほんの少し表情が動いたような気がすることはあるが、基本的にあらゆる感情が顔に出ない。  睦月を迎えに行く光司のことを想った。光司のことだから、きっとろくに連絡もせずに突然行ったに違いない。光司は弟ができると言って嬉しそうだった。きっと、暇だから、とか、思いついたから、とか、そんな理由で突然行って、下校する制服の集団の中から睦月を見つけて嬉しそうに呼ぶ。気付いて駆け寄る睦月。無表情で、いつもぼんやりして、体力なんて全然なくて、朝は机に突っ伏している睦月が、光司には駆け寄っていって笑顔さえ見せた。それがどれほど特別なことなのかは、友宏にさえ理解できる。  五回しか会ったことがない。睦月はたまに言う。     
/274ページ

最初のコメントを投稿しよう!

932人が本棚に入れています
本棚に追加