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 普通に暮らしているようで、友宏自身を含め、それぞれに面倒だったり大変だったりする人生を抱えている。例えば友宏にとって両親がいないことは普通でも、周囲からすればそれは同情に値するらしかった。俳優に生活を絞るために通信制高校に転校したことも、祖母や姉と離れて暮らしていることも。その中で光司に拾われたのは、ただ幸運だったとしか言いようがない。  一緒に暮らすと決めた時、光司は友宏の姉にまず会いに行き、そのあと入院していた祖母に会いに行ったそうだ。大事にするから預けて欲しい。光司は二人にそう言ったのだという。後になって姉から聞いた。意外だった。なんでも勝手に決めて勢いで動いていたような光司が、そんなことをしていたなんて知らなかった。それでも、そういうことをすべきだと光司が考えるくらいには、友宏の人生は当たり前とは違うものだった。  睦月はどうなのだろう。  十二月、高校まで睦月に会いに行った光司は、弟に何を考えていたのだろう。  睦月の人生を考えてみた。それは仕事の時に役作りに似ていた。お世辞にも頼れるとは言えない母との二人暮らし。毎晩ゆっくり眠ることができなくなるくらい、母のために動いてきた。夜中に迎えに行った。朝までずっと母の話を聞いていた。物心ついた頃からずっと、少女のような母と二人で生きてきた。  睦月は優しい。気がつけば隣にいて、押し付けがましくなく、さりげなく心に寄り添ってくる。特別なことは何一つしていない。ただぼんやりと傍にいて、気づけば睦月相手になんでも話してしまう。睦月はただ、無表情に傍にいる。     
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