プロローグ

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「おれ、ちょっと一回家戻ってからまた来るから。ご飯出ると思うけど父さんの会社の知り合いばっかりだろうし、しんどかったらうちの控え室にいて。ついでにジャージかなにか持って来るね」 「いや、俺は……」 「いいから。たぶん……光司もその方がいいと思うし」  友宏は戸惑ったような顔をしていた。その肩を一度軽く叩いて、睦月はホールの玄関へ向かった。動いている方が楽、というのは本当だった。黙っていると色々なことを考えてしまう。  タクシーにお願いして裏に回ってもらい、母と伯母を送って、その帰りに自宅へ寄った。学校のジャージを出して適当なかばんに入れ、新品のパンツがなかったのでコンビニに寄って友宏の分を適当に買った。  会計の前に、そういえばなにも食べてないな、と思って、パンと牛乳とゼリー飲料を買った。タクシーの中でぼんやり食べたが、ゼリー飲料は残しておいた。もしかしたら友宏は食事が喉を通ってないかもしれない、と思って。  恋人を喪うってどんな気持ちなんだろう。  そんなものいたことはないので、睦月にはわからない。  それでも、実の弟である自分より、友宏のほうがきっと辛い。 ※  睦月がホールに戻った頃にはもうほとんどの客が帰っていた。父の知り合いは気を遣ってくれたらしい。光司は三歳からずっと父とともに海外にいたから、日本にはまだ親しい人間はあまりいないようだった。友宏を除いて。     
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