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 三月の頭から一緒に暮らし始めて、睦月はこれまで何を考えていたのだろう。  睦月は一見マイペースだ。笑わないし怒らないし、いつもぼんやりと淡々とそこにいる。  光司に駆け寄る睦月を想った。きっと光司は睦月を見つけた途端、引っ張って強引に抱き寄せた。人前だろうとなんだろうと、光司はそういうことをする奴だった。どこだろうとべたべたに甘やかして、くっついて、好きな相手はうんざりするくらいの強引さで愛した光司。普段は笑わない睦月が、光司の前では友人も驚くくらいの笑顔を見せた。きっと、睦月は嬉しかったのだ。光司が、血の繋がった実の兄が自分を迎えにきて。  もしかしたら、それまでの睦月の人生において、睦月を無条件に甘やかしたのは、光司だけなのかもしれなかった。  無条件に愛して、優しくして、べたべたに甘やかして、睦月がそれを安心して受け取ることができた相手は、光司だけなのかもしれなかった。  母親は守らなければならなかった。頼りない少女のようで、放っておけなくて夜中だろうと迎えに行った。母親のために夜中じゅうずっと相手をしていた。     
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