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 睦月にとって母親は、自分を大切に守ってくれるものではなかったのだろう。母親と二人で過ごすなかで、段々と睦月の心は静かになっていった。母親が泣いても動じないように。帰ってこなくても平気でいられるように。いまの年齢ならば大したことではない。しかし、子供の頃からずっとそうしてきたのならば、その生活は睦月にとってひどく負担を強いることだったに違いない。睦月自身はそう考えなかったにしても。  ポケットの中のスマホが震えた。  開くと、マミから先ほどの写真が送られてきていた。  無表情の睦月が上目遣いにカメラを見ていた。  隣の睦月は静かに目を閉じている。眠っているのかは、友宏にはわからない。  十八年間、母親と二人で静かに無表情に生きてきた睦月にとって、光司の存在はどれほどの明るさだったのだろう。きっと光司は睦月を放って置かなかった。光司の優しさは強引だったから、きっと睦月を眠れない生活から身勝手に引きずり出した。言わなくても光司はきっと気づく。バカなようでいて、光司の観察眼は鋭かった。全部わかっているような顔でなんでも勝手に決めてきた。  光司が死んで、唐突に現れた兄が唐突に消えて、睦月もおかしくなっているのかもしれなかった。  なぜ今まで気づけなかったのだろう。     
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