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 友宏は睦月に救われた。きっと一人ではあの虚無に耐えて生きてはこられなかった。今では光司の喪失も、傍でじっとしている静かな悲しみとなって友宏の中に落ち着いている。時折動いて友宏を突き刺したりもするが、耐えられないほどではない。それは睦月のおかげだ。一番苦しかった時期に睦月はふらっとリュックひとつで現れて、何をするでもなく隣にいてくれた。ただあの家で友宏を待って、光司の不在と仕事で身も心も潰れる前に助け出してくれた。  睦月はどうなのだろう。  睦月にとって自分は、どんな存在なのだろう。  車内放送が最寄の一つ前の駅名を告げた。気づいて隣の睦月を揺すった。 「起きろ。次だぞ」 「うー……もう?」  睦月は眠そうな顔で目を開ける。その表情の幼さが、友宏の柔らかいところに突き刺さった。  睦月はもしかしたら、友宏が思うよりずっと弱くて幼い人間なのかもしれない。 「……なに? なんかついてる?」  感情の見えない瞳に見つめられて、適当に首を振った。睦月は不思議そうに首を傾げ、ふあ、と無防備にあくびをした。  二人で大した会話もなく家に帰った。四ヶ月一緒に暮らして、思えば最初から会話なんてなくても違和感はなかった。  友宏が忘れた鍵は、玄関の靴箱の上に置き去りにされていた。 ※  夜中に目を覚ます。  まっくらな静けさの中で、耳を澄ます。  泣き声は聞こえなかった。テレビが付けっぱなしになっている様子もなければ、起きている人間の気配もない。不穏な気配はどこにもない。  耳を澄ます。ごく近くから、深い寝息が聞こえる。  友宏だ。  夜の中で、自分はもう母と暮らしてはいないのだと思い出した。     
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