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 長い雨が止んで、夏が来て、気がついたら八月だった。その間に友宏はひとつ舞台の再演を終えた。睦月は相変わらず家にいて、たまに模試に出かけたりしている。睦月が黙って家事を終えているので、なんとなくそれに甘えたまま友宏は仕事に集中した。三月から一緒に暮らすうち、友宏が仕事をして睦月が家事をする、というリズムが出来上がってしまっていた。生活費は完全に折半だから友宏が一方的に甘えていることになるが、睦月としてはどうでもいいらしい。効率的でしょ、と言って友宏のぶんの洗濯物まで綺麗に畳んでくれる。  八月十三日はあっという間に訪れた。  真っ白な快晴だった。睦月は初めてまともに喪服を着て、ネクタイを締めながらすでにぐったりしていた。 「真夏にジャケットとネクタイとかバカじゃないの……」 「ジャケットは脱いで持ってればいいんじゃねえの」  睦月は暑さに死ぬほど弱い。炎天下の中を真っ黒な喪服で歩くのは地獄だろう。  睦月の実家までは電車を乗り継いで一時間半くらいだ。睦月の母も暑さや炎天下に弱いらしく、法要はすべて家で行うということだった。駅に着くまでに睦月は既にしんどそうだった。聞けば、汗をかかないから体に熱がこもってぼんやりするらしい。そういえば、どんなに暑い日でも睦月が汗だくになっているというところを見たことがない。見かねて自販機でスポーツドリンクを買ってやった。 「首とか脇とか冷やしたら楽になると思う」 「そうなの? ありがと」  細い首筋にスポーツドリンクの缶を当てる睦月はぐったりして、頬や目元が赤く火照って辛そうだった。     
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