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 法要にはほとんど誰も呼ばなかったようだ。社長も来るかと思ったが遠慮したらしい。光司の両親、つまり、睦月の両親と、伯母と、睦月と友宏。それだけだった。濃密な家族の空気の中に自分がいることに少しだけ居心地の悪さを感じた。  眠いようなお経を聞いて、手を合わせて、菊の祭壇に飾られた光司の写真を眺めても、なぜだか現実のことのように思えなかった。光司はきっと、初盆法要なんてものも知らないだろう。菊の花はあまりにも似合わない。  それから近所の料理屋で食事をして、睦月の実家に戻った。睦月はぼんやりしているようで、母親を前にすると家にいる時よりよほどしっかりしていた。というより、母親が頼りなさすぎるように友宏には見えた。放っておけないというか、世話をしなければならないような気にさせられるというか、小さくていじらしくて、とても一八歳の息子がいる女性には見えないのだ。光司を産んだなんてもっと信じられない。それでも顔や雰囲気は光司にも睦月にも似て、母親似の息子たち、という濃厚な血の流れを感じさせた。それに比べて何度か面識のある父親は背が高くしっかりとして、この人の手で光司が育ったというのは説得力があった。光司は自由奔放でめちゃくちゃだったが、裕福な家に育った人間に特有のおおらかさと上品さを持っていた。その品の良い気配が、確かに光司の父からはするのだった。 「友宏、コーヒー? 麦茶?」     
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