プロローグ

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 教えられた仮眠室には布団が用意されていたが、それはそのままになっていた。父はおらず、友宏を探すと光司の棺がある部屋にそのまま座っていた。  睦月はその辺にかばんを置いて友宏の隣に座った。ついでにもういいかと思って制服のネクタイを外し、シャツのボタンも緩めた。スマホを見たら二十三時だった。友人たちからいくつか連絡が入っていたが、見るのが面倒で既読をつけなかった。  友宏は黙っていた。背筋を伸ばして座っていたが、何を考えているかは分からない。 「ハンカチ、ありがとな」  不意に言われて、睦月は首を振った。そんなことどうでもよかった。それより友宏がいま大丈夫なのかどうかの方が心配だった。睦月は家族がいる。しかし、友宏はここでは一人だ。 「ジャージとか持ってきたから、少し寝てきたら。朝、どっかから新幹線で来たんでしょ」  隣の顔を見ないようにして言った。泣き顔はもちろん、無防備な姿を見られたくはないだろうと思った。 「いや……無理そう」 「じゃ、せめて横になりなよ。倒れるよ」  友宏が隣で首を振った。立てないのかもしれなかった。目の前の祭壇に飾られた光司の遺影に縫い止められて。     
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