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 笑ってしまった友宏を見て、光司の父もまた困ったように笑った。まあ、君がいいならいいさ。そう言って光司を引っ張って背中を一発叩いた。叩かれた光司はそれでも笑っていて、大丈夫大丈夫、トモいい子だし、おれ大事にするし、とぬいぐるみを抱くみたいに友宏を抱き寄せた。光司の父は、お前が年下を連れて来ると思わなかった、と苦々しく言い、あの家に光司と一緒に暮らすことを簡単に許してくれた。何度も言うが、こいつ見た目より相当頭悪いから、困ったことがあったらなんでも頼ってくれ。三歳からずっと海外を連れ回していたから日本の常識を知らないし、色々面倒起こすだろうから。そう言って友宏に電話番号を教えてくれた。そのときに家族の話も仕事の話もしたと思う。当たり前のように応援されて嬉しかった。この父親に育てられた光司を見て、適当な癖に誠実さが消えない不思議な性格に納得したのも覚えている。  食卓には写真が一つだけ飾られていた。光司のスマホで撮ったものだろう。光司と母親がくっついた自撮りで、目元や髪の感じがよく似ていた。どこからどう見ても親子だった。  それに比べて、睦月と目の前の父親はあまり似ていなかった。睦月はどう見ても母親似だ。薄ぼんやりした表情も、小さくて頼りない見た目も、全体の雰囲気も。 「睦月との生活に不便とかはない?」 「はい。むしろ、暮らしやすいです。睦月はたぶん、かなり気を遣ってくれてるし」  台所から睦月がなにかしている気配がする。その気配にもすっかり慣れた。睦月は基本的に何をするにもいつも黙っていて、気がついたら生活は快適に保たれている。光司の部屋にある大量の観葉植物の世話も、睦月はいつの間にかマスターしていた。家事や細々したことに礼を言うと、暇だし、と睦月は言う。 「そうか……」  睦月の父は、友宏の答えに迷うような声を出した。光司や睦月がいるところで話したことは結構あるが、対面で二人で話すというのは初七日の日以来で、先に続く言葉が読めなくて緊張する。友宏が黙っていると、睦月の父は気づいて表情を緩めた。     
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