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 光司のいない人生を生きていかなければならない。そんなことはわかっている。睦月の父が言った言葉の意味も、頭では理解できる。自分は睦月の父から見ればただの子供で、光司との関係なんて大人から見れば一過性のものでしかなくて、そんなものにいつまでも縛られる理由なんてない。彼からすれば、子供がいつまでも生傷にしがみついているようにしか見えないだろう。  それでも、光司を忘れるだなんてしたくなかった。  十七歳のあの日から、友宏の人生を塗り替えた速風光司を、忘れることなんてできなかった。  それまで友宏はただの高校生だった。家の都合で一人で暮らさなければならなくなって、そこから人生の勢いが変わった。一人で暮らすということは生活を誰にも頼れないということだ。自分で自分の面倒を見なければならない。部活感覚でやっていた俳優の仕事に本気で取り組もうと決めた。学期の途中に無理を言って全日制から通信制に転校し、俳優で生きて行くと社長に告げた。友宏には両親がいない。育ててくれた祖父は中学の頃に亡くなり、祖母は簡単な怪我で歩けなくなった。七つ年上の姉は結婚していて、一ヶ月後に転勤になるという夫婦についていこうとは思えなかった。友宏はあっという間に一人になった。忘れもしない十七歳の十一月、祖母が入院して誰もいなくなった家の中で、自分の人生を考えた。東京に残ることを自分で決めた。自分で決めた以上、逃げられなかった。いま思えば、随分と追い詰められていた。それほど気負うことはなかったのに、と昔の自 分に思う。     
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